ヤン・ルカンがMetaを去った4つの理由:65歳のAI巨匠が新会社で目指す世界モデル
この記事でわかること
- ヤン・ルカンがMetaを去った4つの理由
- 彼が「LLMは行き止まりだ」と主張する根拠
- 新会社AMI Labs(Advanced Machine Intelligence Labs)のビジョン
- 「世界モデル」とは何か、なぜLLMとは異なるのか
なぜ今この話題が重要なのか
2018年にチューリング賞(コンピュータサイエンスのノーベル賞)を受賞したヤン・ルカン。AI研究の「ゴッドファーザー」と呼ばれる人物が、65歳にして新しいスタートアップを立ち上げました。
しかもその理由が、**「LLMは人間レベルの知能への道ではない」**という確信。ChatGPT全盛の今、この主張は異端に聞こえるかもしれません。でも、ジェフリー・ヒントンと並ぶAI界のレジェンドが言うなら、耳を傾ける価値があるでしょう。
ヤン・ルカンがMetaを去った4つの理由
理由1:AI戦略の根本的な不一致
最大の理由は、ルカンとMetaの間にあるAI戦略の哲学的対立です。
Metaは2023年のChatGPT登場以降、LLM(大規模言語モデル)に全力投球してきました。毎年数百億ドルをAIインフラに投資し、LLM中心に企業を切り直しています。
一方ルカンは、このアプローチに公然と懐疑的でした。
「LLMは有用だけど、人間レベルの知能への道ではない。最終的にはLLMの道は行き止まりだ」
彼の考えでは、LLMはインターネット上のテキストから言葉の統計的パターンを学んでいるだけ。でも人間の知能は、物を落としたら下に落ちる、お湯は熱いといった物理世界のルールを体験を通して学んでいます。
この「物理世界の理解」がないと、本物の知能には到達できない—それがルカンの主張です。
さらに彼は、**LLMが「部屋の空気を吸い尽くしている」**と警告していました。LLM研究にリソースが集中しすぎて、他の重要な研究ができなくなっているという意味です。
理由2:組織の再編成
2025年中頃、ザッカーバーグは「Meta SuperIntelligence Labs」という新組織を立ち上げ、そのトップに28歳のアレクサンダー・ワン(Scale AI CEO)を据えました。
Scale AIはAIデータラベリングで実績のある会社ですが、ワンはAI研究の現場経験がほとんどありません。ルカンは「学習は早いけど、若くて経験不足だ」と評しています。
結果として、AI界のゴッドファーザーの上に、年下で研究経験の浅い人間が上司として配置された形になりました。
ルカンはワンに対して敵意があるわけではなく、「研究って命令系のマネジメントじゃ回らない」という文化の話をしていたようです。でも、政治的には難しくなった—言いたいことが通りにくくなったという感覚が強かったと述べています。
理由3:Llama 4の失敗
2025年4月にリリースされたLlama 4は期待外れでした。それだけでなく、**ベンチマークの結果が「盛られていた」**ことが発覚。
具体的には、複数のモデルを使い分けて、それぞれのベンチマークで最も良い結果が出るものを選んで発表していたとのこと。
ルカン自身もインタビューで「結果が少しごまかされていた」と認めています。
ザッカーバーグはこの件で激怒し、「関わった全員への信頼を失った」と言われています。この事件後、Metaはリスクを取りたくないモードに入り、安全で実績のあるものだけを選ぶようになったそうです。
ルカンにとって、これは「イノベーションの死」を意味しました。革新的なアイデアがリスク高いと判断されて採用されなくなる—研究者にとってこれほど辛いことはありません。
理由4:ビジョンがMetaの商業的関心を超えた
ルカンが社内に送った最後のメモには、こう書かれていました:
「次のAI革命には、物理世界を理解して、持続的な記憶を持って、推論できて、複雑な行動シーケンスを計画できるシステムが必要だ」
彼が考える「世界モデルAI」は、ロボット工学、産業オートメーション、ジェットエンジンの最適化など、非常に広い分野に応用できるものです。
でもMetaはSNSと広告とメタバースの会社。ルカンのビジョンはMetaの範囲に収まりきらなかったのです。
AMI Labs:ルカンの新しい挑戦
世界モデルとは何か
ルカンが新会社「Advanced Machine Intelligence Labs(AMI Labs)」で目指すのは、世界モデルの実現です。
今のLLMはテキストを読んで学習します。一方、世界モデルはビデオや感覚データから学ぶというアプローチ。
例えば、赤ちゃんがコップを落とすのを見て「物は下に落ちる」と学ぶように、AIもビデオを見て物理法則を学ぶ。しかもただ見るだけでなく、次に何が起こるかを予測する能力を持つ。因果関係を理解して、行動を計画できるようになる。
ルカンはMeta時代に、このプロトタイプ「V-JEPA(Video Joint Embedding Predictive Architecture)」を作っています。ビデオの次の状態を絵として生成するのではなく、より抽象的な表現空間で何が起こるかを予測するシステムです。
タイムラインと体制
ルカンのタイムラインは:
- 12ヶ月以内:ベイビー版(初期バージョン)をリリース
- 数年以内:大規模なシステムを完成
そして大胆な予測も:
「3〜5年以内に世界モデルが支配的なAIアーキテクチャになって、正気な人間なら誰も今のタイプのLLMを使わなくなるだろう」
注目すべきは、ルカンはCEOにならないという点。
「私は科学者でありビジョナリーだ。人々にインスピレーションを与えて面白いことに取り組ませることができるし、どんな技術が機能するかを予測するのも得意だ。でもCEOになるべきじゃない。無秩序すぎるし、年を取りすぎている」
彼はChief Scientist兼Executive Chairman(会長)として、研究に専念する形を選びました。CEOには、フランスのAIスタートアップNablaの共同創業者アレックス・ルブランが就任しています。
テスラジオの考察
ルカンの「LLMは行き止まり」という主張は、一見すると極端に聞こえます。でも実は、世界モデルの重要性自体は業界のコンセンサスになりつつあります。
GoogleのDeepMindはまさに物理世界を理解するモデルの研究を進めていて、その成果が最新モデルの性能向上につながっています。
違いは、LLMの延長線上にそれがあるかどうか。Googleは「LLMに世界モデルの概念を組み込む」アプローチ。ルカンは「LLMとは根本的に異なるアーキテクチャが必要」と考えている。
どちらが正しいかは、今後数年で明らかになるでしょう。でも、チューリング賞受賞者が65歳でスタートアップを立ち上げるほど確信を持っているなら、少なくとも探索する価値のある方向性であることは間違いありません。
何歳になってもチャレンジを忘れない—ルカンの姿勢は、私たちにも勇気を与えてくれます。
まとめ
- LLM懐疑派:ルカンは「LLMは人間レベルの知能への道ではない」と確信
- Metaとの対立:AI戦略の哲学的違い、組織再編、Llama 4の失敗が重なった
- AMI Labs設立:世界モデルの実現を目指す新会社を65歳で創業
- 12ヶ月で初版:ベイビー版を1年以内にリリース予定
- CEOにはならない:科学者としての役割に専念する形を選択
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