サム・アルトマンとジョニー・アイブが作る「次のiPhone」:io社の設計哲学を徹底解説
この記事でわかること
- OpenAIのサム・アルトマンとジョニー・アイブが設立した「io」社とは
- ジョニー・アイブの独特な「創造プロセス」と製品開発の哲学
- io社が目指す「タイムズスクエアから湖畔へ」というデバイス体験
- 新デバイスが5年以内に登場する理由と、AIが果たす役割
なぜ今この話題が重要なのか
iPhoneを生み出したAppleのデザイナーと、ChatGPTを世に送り出したOpenAIのCEOがタッグを組んでいます。この組み合わせだけで、テクノロジー業界のビッグニュースです。
2023年に出会った二人は、「知性とは何か」「テクノロジーは人間の生活でどういう役割を果たすべきか」という哲学的な問いを共有していました。そして今、Appleの元エンジニアやデザイナーを多数引き抜いて「io」という会社を立ち上げています。
業界では「ほぼApple 2」とも呼ばれるこの会社が、5年以内に「次のiPhone」を出すと明言しました。一体どんなデバイスなのか、インタビューから読み解いていきましょう。
ジョニー・アイブの創造プロセス
製品から考えない
ジョニー・アイブのデザインプロセスは、一般的なものとは全く異なります。普通は「どんな製品を作るか」から考え始めますよね。でもジョニー・アイブは違います。
彼らがまず探求したテーマは、人間と自然の関係、人間と動物の関係、人間同士の関係、知性の性質、道具の性質、価値観、人権…といった、まるで哲学の授業で出てくるようなものでした。
なぜこんな遠回りをするのか。ジョニー・アイブの答えはシンプルです。
「あらかじめ決められた目標に固執すると、見逃した多くのものに気づかない。それがひどい失望と停滞につながる」
つまり、「AIネイティブなデバイスを作ろう」と最初から決めてしまうと、視野が狭くなってしまう。だから人間の本質的な部分から考え始めるというわけです。
「曖昧さの期間」を愛する
ジョニー・アイブが特に大事にしているのが「曖昧さの期間」と呼ぶ、製品開発の初期段階です。何を作るかまだ分からない。何ヶ月もそういう状態が続く。普通は不安になりますよね。
でもジョニー・アイブは「この時期がめちゃめちゃ大好き」だと言います。なぜか。
この曖昧な期間中、唯一クリアに見えてくるのは「やらない理由」だからです。このアイデアのここがダメ、あれもダメ、これも存在すべきじゃない…。そういうネガティブな要素がどんどん浮き彫りになってくる。
一方で「やる理由」は直感的で繊細で、言葉にするのが難しい。だから最終的には「直感への大きな飛躍」が必要になると言います。
これはキャリアに迷っている人にも応用できる考え方かもしれません。やりたいことが見つからないなら、まず「やりたくないこと」を徹底的に削ぎ落としていく。残ったところに答えがある可能性があります。
デザインプロセスで「本を書く」
サム・アルトマンが驚いたのは、ジョニー・アイブのチームがデザインプロセスの中で「本を何冊も書いている」ことでした。
製品のドキュメントではありません。「形状の歴史」「カメラのデザイン」「時間の経過による関係性の進化」といったテーマについての、学術的なリサーチ本を10冊くらい積み重ねているのです。
サムは最初「これ製品と関係あるの?」と思ったそうです。でも、それぞれの本がめちゃくちゃ美しく、思慮深く作られていた。そして最終的にプロトタイプを見たとき、これらの一見バラバラな糸が想像もできなかった形で一つにまとまっていくのを目撃したのです。
「製品が出たら、これらの本を出版してほしい」とサムは言っています。
io社が目指すデバイス体験
タイムズスクエアから脱却する
今のスマートフォンやアプリを使う体験を、サムは「ニューヨークのタイムズスクエアを歩いているみたい」と表現しています。
顔の前で光が点滅し、あちこちに注意を取られて人にぶつかり、絶えず音が鳴っていて落ち着かない。アプリを開けば広告があり、通知が来るたびにドーパミンを追いかけさせられる設計になっている。
サムは言います。「どうしてこうなったかは理解できる。でも、これらは僕らの生活を平和で穏やかにはしていない」
理想は「湖畔の小屋」
io社が目指す理想の体験は、タイムズスクエアとは真逆です。
「山の中の湖畔にある、一番美しい小屋に座って、静けさと落ち着きを味わっているような感覚」
通知が鳴り響くスマートフォンとは対極の、穏やかな体験。ここまで言っているので、おそらく新デバイスでは通知の鳴り方が根本的に変わるのでしょう。あるいは、そもそも通知という概念がなくなるのかもしれません。
AIが「空気を読む」デバイス
この「湖畔体験」を実現するのが、AIの力です。サムの説明によると、デバイスに搭載されるAIが「本当に賢くて信頼できる存在」になることで可能になると言います。
具体的には:
- 大量の情報を代わりにフィルタリングしてくれる
- 「今は邪魔すべきじゃない」「今は知らせた方がいい」を文脈で判断する
- 長い期間にわたってユーザーのために動き、時間をかけて信頼関係を築く
ユーザーが設定しなくても、AI側が空気を読んでくれる。その精度が一緒に過ごすほど上がっていき、やがてAIに任せておける存在になる。いつ情報を見せるか、いつ意見を求めるかも、その時の状況を理解した上で判断してくれる。
これはAGI以前のテクノロジーでは不可能だった体験です。今のデバイスはそういう設計になっていないから、新しいハードウェアが必要になるのです。
ジョニー・アイブの製品哲学
嫌いな製品の特徴
ジョニー・アイブには、嫌いな製品のタイプがあります。
一つは「顔の前で尻尾を振る犬みたいな製品」。ひたすら注意を引こうとしてくる、自己主張の激しいデバイスです。ピカピカ光ったり、やたらと通知を送ってきたり。
もう一つは「複雑な問題を解決したことをユーザーに思い出させようとしてくる製品」。いわば承認欲求が強い製品です。「すごい技術使ってるでしょ?」とアピールしてくるようなもの。
具体的にどの製品のことを言っているのかは語っていませんでしたが…。カメラが年々巨大化しているiPhoneのことかもしれません。
理想の製品とは
では、ジョニー・アイブが好む製品とはどんなものか。
- 一見素朴で当たり前に見えるくらいシンプル
- 中身は信じられないほど知的で洗練されている
- でもユーザーは「すごい技術を使っているぞ」とは意識しない
- 威圧感がなく、雑に触っても大丈夫な「ただの道具」として使える
超ハイテクなのに、体験は自然で簡単。そのためにジョニー・アイブは徹底的に「そぎ落とす」ことを重視します。
この機能もいらない、この表示もいらない。引き算に引き算を重ねていく。これはイーロン・マスクのTeslaのデザインプロセスとも共通しています。「なぜこのサンバイザーにシールを貼らなければいけないんだ」「サイドミラー、もういらなくない?」と疑問を投げかけ続ける姿勢です。
「舐めたくなる」が完成の基準
ジョニー・アイブの有名な言葉があります。
「デザインが正しくできたと分かる瞬間は、その製品を舐めたくなったり、一口かじりたくなったりするとき」
比喩的な表現ですが、要するに「工業製品っぽく見えない」「人間にとって本当に身近な存在になれている」ということでしょう。赤ちゃんのお尻を可愛すぎてかじっちゃうみたいな、飼い猫を口に入れたくなるみたいな、そういう感覚です。
サムは初期のプロトタイプを見たとき、まだその感覚にはなれなかったそうです。でも、あるタイミングで突然「これはかじりたくなる気持ちもわからなくもない」という感覚に到達したと言います。
デザインの完成度をどこまで突き詰めればいいか分からない。そんなとき、ジョニー・アイブは「かじりたくなるかどうか」を基準にしているのです。
新デバイスはいつ出る?
インタビュアーが「5年以内に見れそう?」と聞いたところ、サムは「5年よりはずっと早い」と答えました。ジョニー・アイブも「5年よりは早いと思う」と同意しています。
つまり、2030年までには何かしらのデバイスがio社から登場する見込みです。おそらくもっと早い可能性も。
ちなみに、ジョニー・アイブは口が軽いタイプらしく、インタビュー中も自分で気をつけていたそうです。具体的な製品の詳細が漏れてしまわないように。それだけ開発は進んでいるということでしょう。
テスラジオの考察
このインタビューで興味深いのは、具体的な製品の話がほとんど出てこなかったことです。普通の製品発表なら「こんな機能があります」「こんなスペックです」と話しますよね。
でもサムとジョニー・アイブは、哲学と創造プロセスの話に終始しました。これ自体がメッセージなのかもしれません。「今までの延長線上にある製品ではない」ということを示しているのかもしれません。
「タイムズスクエアから湖畔へ」というコンセプトは、現代人の多くが感じている「デジタル疲れ」への回答になりそうです。スマートフォンが便利なのは分かっている。でも、常に通知に追われる生活は本当に幸せなのか?
そして、この解決にAIを使うというのが現代的です。人間が細かく設定するのではなく、AIが文脈を理解して判断する。それは確かに、AI以前の技術では不可能だった体験です。
テスラジオとしても、「やらないこと」から考えるというアプローチは参考になりました。何を扱うかより、何を扱わないかを先に決める。残ったところに本質がある。
まとめ
- io社はサム・アルトマンとジョニー・アイブが2023年に出会い設立。Appleの元エンジニア・デザイナーが多数参加する「ほぼApple 2」
- ジョニー・アイブの創造プロセスは哲学から始まる。製品を決める前に、人間の本質を探求するリサーチ本を何冊も書く
- 目指す体験は「タイムズスクエアから湖畔へ」。通知に追われるスマートフォンとは真逆の、穏やかなデバイス
- AIが「空気を読む」ことで湖畔体験を実現。フィルタリングと文脈判断を任せられる信頼関係を構築
- 新デバイスは5年以内、おそらくもっと早く登場。「かじりたくなる」レベルのプロトタイプは既に存在
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