パルマー・ラッキー完全解説:VRの天才少年はなぜ防衛テックに転身したのか
この記事でわかること
- パルマー・ラッキーの原点:15歳のレトロゲーム改造オタクがVRにたどり着いた経緯
- Oculus創業からFacebook売却、そして「追放」までの物語
- なぜ彼は防衛テックという「誰もやりたがらない」領域に飛び込んだのか
- Andurilの思想:AIを使った自律型兵器で戦争を「始まる前に止める」
なぜ今この話題が重要なのか
パルマー・ラッキーが来日し、小泉防衛大臣と面会したことが話題になりました。アロハシャツを着た「肝いりのオタク」は、いったい何者なのか。
16歳でVRヘッドセットを自作し、21歳でFacebookに23億ドルで会社を売却。その後Facebookを解雇され、防衛スタートアップAndurilを立ち上げた。VRから戦争へ—この一見異様なキャリアの裏には、一貫した思想があります。
パルマー・ラッキーの原点
「こちら側」の人間
パルマー・ラッキーは、本物の技術オタクです。15歳の時、「ModRetro」というレトロゲーム機の改造コミュニティを立ち上げました。ゲームボーイの改造、Nintendo64のポータブル化—世界トップレベルに濃い技術オタクが集まる場所を、15歳で作っていたのです。
今でもAndurilのCEOを務めながら、サイドプロジェクトとして「Chromatic」というゲームボーイ互換機を自社で製造・販売しています。スクリーンはサファイアクリスタル製、ボディはマグネシウム合金、バッテリーは24時間持続—昔のカートリッジがそのまま使える。「自分のために作っている」と言いながら、ちゃんとビジネスにもなっている。
来日した際には秋葉原で昔のゲーム機の素材を物色している動画がYouTubeに上がっていました。任天堂が好きで、ちょくちょく秋葉原に来ていたそうです。
フライトシミュレーターからVRへ
VRに目覚めた経緯が面白い。15歳の時、6画面モニターを並べてフライトシミュレーターをやっていました。もっと大きな画面でやりたい。8画面、12画面…と広げていった結果、**「これ、VRでやった方がいいじゃん」**と気づいたのです。
この時点で「最終形はVRだ」と確信し、80年代90年代の古い特許、軍事研究の論文、医療論文を読み漁り始めます。「知識を脳内にダウンロードする」感覚で吸収していったと言います。イーロン・マスクがロケットを作る前に教科書を読み漁った話と似ています。
南カリフォルニア大学のMixed Reality Labで働いていた時、軍が資金提供しているPTSD治療のVRプロジェクト「BRAVEMIND」を見て、「この技術が人を守れる」と実感したそうです。VRが人を救うという原体験が、10代の頃にすでにあったのです。
16歳でVRヘッドセット自作
16歳でVRの最初のプロトタイプ「PR1」を作りました。重さ3キロの巨大なヘルメットで、めちゃめちゃ不格好。でも重視したのは見た目ではなく、視覚体験がモニターを超えるかという機能の確認でした。
その後もプロトタイプを作り続け、18歳の時に初めて友達に見せたら「これめっちゃすごい」という反応が返ってきた。それまでは静観されていたのが、ようやく受け入れられた瞬間でした。
空想を愛するが現実逃避はしない
パルマー・ラッキーの性格的な特徴として、SFやアニメといった空想を愛しながら、現実逃避はしないという二面性があります。
技術には限界があるし、人間の本質は変わらない—そういう現実を冷静に見ている。だから彼の技術観は「夢を見せるため」だけでなく、「現実の問題にどう使えるか」が常にセットになっています。
Oculus創業とFacebook追放
オンラインの友達と起業
18歳でOculusを起業した時、重要な友達がいました。クリス・グレイゾンという人物です。VRフォーラムで知り合った、いわばオンラインでよくチャットする技術仲間。学校の友達ではありません。
パルマーがクリスに電話して「今年の夏何してる?」と聞くと、クリスは「ピザ屋でバイトして大学の準備をする」と答えた。パルマーは言いました。
「いや、お前は俺と一緒にOculusを作るんだ」
金曜日に電話して、月曜日にはパルマーがミニバンで迎えに来て、クリスの荷物を全部積んで出発。親からすれば「オンラインの友達の会社に入るの?」という状態でした。
2人は廃墟みたいなモーテルに住んで、Oculusの最初のプロトタイプを完成させました。Kickstarterで資金調達したところ、2時間で目標額を達成。VRコミュニティで活動していた実績が、ストーリーとして効いたのでしょう。
プラットフォーム戦略
彼らが作ったのはただのVRヘッドセットではありませんでした。SDKを整備し、UnityやUnreal Engineなどのゲームエンジンと統合した。これで何百人もの開発者がすぐにゲームを作れる環境を用意したのです。iPhoneのようなプラットフォーム戦略です。
2014年、パルマー21歳の時にFacebookが買収を申し入れ、約23億ドル(当時のレートで約2300億円)で売却。Facebook傘下でパルマーの思想は形になり続け、Oculus Questという「スタンドアロン形式のVRの完成形」がリリースされました。
政治的圧力と解雇
しかしFacebookに入って数年後、彼は政治的な活動をきっかけに社内で居場所を失い、最終的に解雇されます。詳しい理由は公には語られていませんが、彼自身は政治的圧力だったと言っています。
ここで彼が痛感したのが「ビッグテックは国家を守らない」という現実でした。
当時のFacebookもGoogleもAppleも、中国市場が非常に重要でした。中国共産党を刺激したくない。だからアメリカ軍や国防総省と仕事をすると、中国市場から追放されるリスクがある。ビッグテックはそれを嫌がるのです。
パルマーの思想は違いました。技術は中立ではなく、民主主義を守るための手段であるべきだ。民主主義を守ってくれているアメリカ軍に技術を提供するのは普通のことでは?
解雇された時、親友のクリスはFacebook社内で「これはおかしい。お前らはパルマーを不当に扱った。俺は最初の従業員だけどもう辞める」と言い、その後Andurilの最初の従業員になりました。
Andurilの思想
AIを使った自律型兵器
AndurilはAIを使った自律型の兵器システムを作る会社です。人の代わりにロボットが戦う未来を目指しています。
中核にあるのが「Lattice」というAIエンジン。すべての兵器の脳として機能し、ドローン、戦闘機、潜水艦、ミサイル、センサーがLatticeでつながって情報を共有します。
パルマーはこれを「ボーグのように動く」と表現しました。スタートレックに登場する、個体がネットワークで完全につながって集合知として行動する存在の比喩です。
日本蜜蜂の「熱殺蜂球」に似ています。外敵のスズメバチが侵入してきたら、数百匹の蜜蜂が群がって高温で殺す。一匹が敵を見つけたら瞬時に全体に共有され、最適な対応を取る。Andurilの兵器も同じように動くのです。
アイアンマンとは違う
パルマーは「アイアンマンとは違う」と明言しています。トニー・スタークは個人が暴力を独占するモデル—彼一人がスーツを着て勝手に悪者を倒していく。
パルマーは暴力の独占は選挙で選ばれた政府と軍隊が持つべきだと考えています。だから強い個人を作るのではなく、アメリカ軍に売る。民主主義の統制下に置く。
人が乗らない戦闘機
代表的な製品「ロードランナー」は、人が乗らない前提で作られた小型ジェット戦闘機です。
人が乗る戦闘機は、人間が気絶しないレベルの加速、人間が反応できる速度—すべて人間基準で制限されます。でもロードランナーはAIが操縦するから、人間では不可能な動きができる。
パルマーの考えでは、人間は戦術的判断をすべき(どこに兵器を配置するか、どういう戦略を取るか)。でも実際に敵を迎撃する瞬間の判断はAIに任せる。マクロは人間、ミクロはAI。
彼は「スタークラフト型のゲーマーが必要」と言いました。FPSのような反射神経ではなく、マップ全体を見てユニットに命令を出す戦略的思考。信長の野望やDota 2のような遊び方です。
抑止力こそが平和
Andurilの最終目標は抑止力を作ること—戦争を始めるのではなく、始まる前に止めること。
中国が台湾を侵攻しようとした時、台湾が確実に撃退できる武器を持っていたら、中国は侵攻しない。負けるのが分かっていたら攻めてこない。
「強力な牙を持っていると分かっているときこそ、社会は最も礼儀正しくなる」
テキサス州で家に侵入する犯罪が少ないのは、銃を持っている家庭が多いから—そういう論理です。
防衛産業のNASA問題を壊す
もう一つ、イーロン・マスクと似ているのが、従来の防衛産業の構造を壊そうとしていること。
従来の防衛産業は「コストプラス」モデル—開発にかかった費用に一定の利益率を上乗せして政府に請求する。予算をオーバーすればするほど利益が増える。F35戦闘機は開発に1兆ドル(約150兆円)かかっています。
イーロンがSpaceXでNASA問題を壊したように、Andurilは自社資金で製品を作って、完成してから政府に売る。スタートアップのモデルを防衛産業に持ち込んだのです。
武器を持たない世界は幻想
武器を作ることへの倫理的な問題について、パルマーは真剣に考えています。
「武器を持たない世界は幻想だ。人間の本質は変わらない。歴史を見れば戦争はいつの時代も起きてきた」
ノルウェー軍のリクルート動画では、兵士たちの訓練映像の最後に「なぜ我々は兵士を必要とするのか」と問いかけ、答えは**「何も起きないためだ」**と締めくくられていたそうです。
今はまだ人類が前に進める時間が残っている。核戦争が起きたら文明の連続性は壊れ、宇宙開発も技術の進歩も止まる。人類が前に進めるこの時間を潰させないことが、パルマーの仕事なのです。
テスラジオの考察
パルマー・ラッキーは、イーロン・マスクと非常に似た思考回路を持っています。SFを愛しながら徹底的に現実的。巨大産業の非効率を壊すスタートアップ的アプローチ。技術を人類の未来のために使うという使命感。
特に印象的だったのは、Facebookを追放された経験が彼を防衛テックに導いたという点です。ビッグテックが中国市場を優先して国防から逃げるなら、自分がやる—その決意の背景には、VRでPTSD治療を見た原体験があったのでしょう。
日本にとってもAndurilは重要になりえます。AI同士の戦闘が主流になる時代に、人が乗る戦闘機を買い続けることが正解なのか。防衛産業の構造変化の中心人物として、パルマー・ラッキーは今後ますます注目を集めるはずです。
まとめ
- オタクと現実主義者の融合:空想を愛するが現実逃避はしない。VRも武器も現実を変える手段
- Oculus創業から追放へ:16歳でVR自作、21歳で23億ドル売却、政治的圧力でFacebookから解雇
- ビッグテックへの失望:国家安全保障を引き受けないビッグテックに失望し、防衛テックへ
- Andurilの思想:AIで自律型兵器を作り、抑止力で戦争を始まる前に止める
- 防衛産業の革命:コストプラスモデルを壊し、スタートアップ方式で武器を作る
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