NVIDIA CES2026徹底解説:ジェンセン・フアンが語るAIファクトリー建設競争時代の幕開け
この記事でわかること
- NVIDIAが主張する「二重のプラットフォームシフト」とは何か
- AIアプリの新しい標準形:エージェント化とマルチモデル化
- 物理AI時代を支える世界モデル「Cosmos」と自動運転「Alpamayo」
- 次世代AIスーパーコンピューター「Vera Rubin」の性能と意味
なぜ今この話題が重要なのか
NVIDIAのジェンセン・フアンCEOがCES2026で基調講演を行い、10件のプレスリリースとともに新製品・新戦略を発表しました。特に注目を集めているのは、自動運転システム「Alpamayo」と次世代AIスーパーコンピューター「Vera Rubin」。
「AIの進化はGPU性能の向上だけでは追いつかない」という認識のもと、NVIDIAはデータセンター全体をシステムとして最適化する「AIファクトリー」戦略を加速させています。この発表は、今後のAI業界の競争軸がどこに移るのかを示す重要な指標となります。
二重のプラットフォームシフト
10〜15年ごとのリセット
ジェンセン・フアンはまず、コンピューター業界の歴史を振り返りました。メインフレームからPC、PCからインターネット、インターネットからクラウド、クラウドからモバイル—約10〜15年ごとに大きなプラットフォームシフトが起きてきた。今、また新しいシフトが起きているというのが彼の主張です。
今回は2つ同時に起きている
今回のAI革命が決定的に違うのは、2つのプラットフォームシフトが同時に起きている点だとジェンセンは強調しました。
1つ目:アプリケーションが動く土台の変化
これまでアプリはWindowsやMac、Android、iOSといったOSの上で動いていました。しかし今は、AIを土台にしてその上にアプリを構築する時代になりつつあります。ジェンセンは「人々はAI自体がアプリケーションだと思っていたが、実際は違う。AIを土台にして新しいアプリを構築する時代になる」と述べました。
2つ目:ソフトウェアの作り方そのものが変化
これまでソフトウェアはプログラミングで作っていましたが、今は「トレーニング」で作る時代に移行しています。コードを書くのではなく、データを学習させる。そして実行環境もCPUからGPUに主役が移ってきている。
10兆ドル規模のインフラ刷新
ジェンセンによれば、過去10年間で作られた約10兆ドル規模のコンピューティングインフラが、AI前提の新しいアーキテクチャに作り直される必要があります。さらに、100兆ドル規模の産業全体で研究開発費の数パーセントがAIにシフトしている。
これは一過性のブームではなく、既存の計算資産をAI型に置き換える長い波が来ているというのがジェンセンの見立てです。
AIアプリの新しい標準形
エージェント化:考えるAIの登場
2022年にChatGPTが登場し、2023年には重要な転換点が訪れました。推論モデルの登場です。
従来のAIは「答える」だけでしたが、推論モデルは「答える前に考える」ことができます。これをテストタイムスケーリングと呼びます。人間が難しい問題に時間をかけて考えるように、AIも推論時に時間をかけることで、より良い答えを出せるようになりました。
ジェンセンは、推論で生成されるトークン量が年5倍ペースで増えていくと予測しています。考えるAIは、それだけ計算需要を押し上げるのです。
マルチモデル化:最適なAIを使い分ける
もう一つのトレンドがマルチモデル化です。一つのAIモデルで全てを解決するのではなく、タスクによって最適なAIモデルを使い分けるという考え方。
ジェンセンはPerplexityを例に出しました。Perplexityは裏側で複数のAIモデルを使っており、質問の内容によってGPT-4、Claude、Geminiなどを使い分けているそうです。
これを実現する技術がインテントルーター。ユーザーの意図を理解して、最適なモデルに振り分ける「交通整理役」です。例えばメールを読む指示ならプライバシー重視でローカルの軽量モデル、論文を要約する複雑な指示ならクラウドのフロンティアモデル、といった使い分けができます。
エージェンティックAIのブループリント
ジェンセンが披露したデモでは、NVIDIAの「DGX Spark」をパーソナルクラウドとしてローカルに置き、機密情報はローカルで処理、高度な生成タスクはクラウドに任せるという使い分けを自動化していました。
さらにHugging Faceのロボットと連携し、部屋の様子を確認して飼い主にメールを送り、犬がソファーに乗っていたら声をかけて降ろすところまでデモで見せました。
ジェンセンは「こういうアプリを作ることは数年前は難しかったが、今は驚くほど簡単になった」と述べています。
物理AIとCosmos
物理世界のデータ不足問題
物理AI—自動運転、ロボット、ドローン、工場の自動化システムで使われるAI—には大きな問題があります。デジタルのAIがインターネット上の膨大なテキストで学習できたのに対し、物理世界のデータは圧倒的に足りないのです。
自動運転を考えると、雨の日、雪の日、子供の飛び出し、動物の横断、工事中の道路…ありとあらゆるシナリオを実際に走って撮影するのは、コストも時間も膨大すぎます。
NVIDIA Cosmos:計算力をデータに変換
この問題に対するNVIDIAの解決策が「NVIDIA Cosmos」という世界モデルです。物理法則や因果関係を理解しているAIで、重いトラックは止まるのに時間がかかる、ボールは下り坂を転がり続ける、といった物理世界の常識を学習しています。
Cosmosの特徴は、シミュレーションからリアルな映像を生成できること。交通シミュレーターで簡単なシナリオを作ると、Cosmosが物理的に破綻しないリアルな周囲の映像を生成します。
ジェンセンはこれを**「Compute to Data」**—計算力をデータに変換する—と呼んでいます。テスラのように実際の走行データを大量に持っていなくても、シミュレーションでデータを作れるというアプローチです。
Alpamayo:考える自動運転
この技術を使ってNVIDIAが開発したのが自動運転システム「Alpamayo」です(ペルーの山の名前)。
Alpamayoの特徴は3つあります:
- エンドツーエンド学習:カメラ入力からハンドル操作まで、完全にニューラルネットワークで一挙に学習
- 人間らしい運転:人間のデモンストレーション走行から学習しているため、自然な運転が可能
- シンキングAI:「前方に歩行者がいるので減速します」「右折するために車線変更します」と、推論プロセスと行動を同時に出力
推論能力があることで、未知のシナリオでも既知の小さな問題に分解して対処できます。Alpamayoはメルセデス・ベンツの新型CLAに搭載され、2026年Q1から出荷が始まる予定です。
Vera Rubin:次世代AIスーパーコンピューター
ムーアの法則の鈍化とNVIDIAの回答
半導体自体の性能向上が昔ほど早くなくなっている中、NVIDIAは発想を変えました。チップ単体の勝負ではなく、AI工場としてのシステム全体を作り直す方向に振り切ったのです。
Vera Rubinは、複数のGPU・CPU、ネットワークソリューション、冷却システムを含めたラック単位のスーパーコンピューター。ジェンセンはこれを**「エクストリームコーデザイン」**(究極の協調設計)と呼んでいます。
3つの改良ポイント
1. 計算能力の引き上げ GPUとCPU自体の性能を一段階向上。
2. ネットワークの刷新 大量のGPUを一つの巨大な計算機として動かすため、GPU同士の接続からデータセンターのネットワークまで含めて刷新。ボトルネックを潰しに行った。
3. 推論時代のメモリ問題への対処 考えるAIは長い文脈を扱うほど価値が出るが、その分データの置き場と読み書きが巨大になる。Vera Rubinはラック内にコンテキスト専用の超高速ストレージを置き、各GPUが追加で16TBのコンテキストメモリを扱えるようにした。
圧倒的な性能向上
Vera Rubinの性能向上は驚異的です:
- 10兆パラメーターのモデル学習:Blackwell比4分の1のシステム数で同じ期間に完了
- データセンター全体のスループット:前世代比約10倍
- トークン生成コスト:10分の1
ジェンセンの言葉を借りれば「10倍早く10倍安く」。AI企業にとって、コスト構造に直接関わる数字です。
AIファクトリー建設競争時代
ジェンセンは宣言しました。これからのAI競争は、モデルの賢さ比べではない。知能をどれだけ効率よく生産できるか、AIファクトリーの建設競争だと。
これは、以前テスラジオで紹介した伝説の投資家ギャビン・ベイカーの見解と一致します。ギャビン・ベイカーも「AIファクトリーを持っているところが強くなる」「それを一番早く作れるのはイーロン・マスクとxAI」と言っていました。
NVIDIAはチップだけでなく、ネットワーク、システム、データセンターの運用まで含めて、AIファクトリーのデファクト(事実上の標準)を取りに来ています。
テスラジオの考察
今回の発表で最も印象的だったのは、NVIDIAが「チップメーカー」から「AIファクトリーベンダー」へと完全にシフトしたことの明確化です。データセンター全体をシステムとして設計・最適化する能力は、GoogleやMicrosoftでも簡単には真似できない領域。
また、Compute to Data(計算力をデータに変換する)というアプローチは興味深い。テスラが実世界の走行データを大量に持っているのに対し、NVIDIAはシミュレーションでデータを生成するアプローチを取っています。どちらが精度で勝るかは、今後の自動運転分野での注目ポイントになるでしょう。
2026年はBlackwellベースのxAIのGrokが注目されていますが、その次にはVera Rubinが控えている。データセンターの建設計画を見れば、どの企業がどの時期に強くなるかの見積もりが立つ—そういう時代に入ったと言えます。
まとめ
- 二重のプラットフォームシフト:AIが新しいアプリの土台に、ソフトウェアの作り方がプログラミングからトレーニングに変化
- AIアプリの新標準:エージェント化(考えるAI)とマルチモデル化(使い分け)が主流に
- Cosmos:計算力をデータに変換する世界モデル。物理世界のデータ不足を解決
- Alpamayo:推論しながら運転する自動運転システム。メルセデス・ベンツに搭載予定
- Vera Rubin:前世代比10倍の生産性を実現。チップ単体ではなくシステム全体で勝負
- AIファクトリー建設競争時代:モデルの賢さではなく、知能をいかに効率よく生産できるかが勝敗を分ける
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