マイケル・バーリが警告するAIバブルの崩壊:投資回収できない3つの理由
この記事でわかること
- マイケル・バーリがAIバブルを懸念する3つの理由
- NVIDIAとパランティアの会計上の「マジック」とは
- なぜAI投資は競争優位を生まないのか(エスカレーター理論)
- バリュー投資家の視点から見たAI企業の評価
なぜ今この話題が重要なのか
2008年のサブプライムローン金融危機を予言し、映画「マネー・ショート」で有名になった伝説的投資家マイケル・バーリ。彼がAnthropicの共同創業者ジャック・クラークと、人気ポッドキャスターのドワルケシュ・パテルと筆談形式で対談しました。
バーリはAIブームに極めて懐疑的で、パランティアにショートを仕掛けていることでも知られています。テクノロジーCEOたちが強気な見通しを語る中、バリュー投資家はAIをどう見ているのか。反対意見を聞くことで、投資判断の精度を上げることができます。
AIは投資に見合う収益を上げられるのか
数字が合わない
バーリが指摘する最初の問題は、単純な算数です。
- NVIDIAは4000億ドル(約60兆円)分のチップを売ってきた
- しかしAIアプリケーション側の収益は1000億ドル程度(約15兆円)
- インフラに60兆円投資して、サービスで稼げるのは15兆円
半分も回収できていません。しかも世界中のSaaS市場全体でも1兆ドル(150兆円)に満たない。バーリの言葉を借りれば「経済には魔法のように拡大するパイなんてない。算術的に制約されたパイがあるだけだ」。
デフレを引き起こす可能性
AIは生産性を上げるかもしれませんが、経済的にはデフレを引き起こす可能性があります。
今まで500ドルで売っていたソフトウェアライセンスが、AIで50ドルに置き換わったとして。生産性は上がるかもしれないけど、ソフトウェアへの支出額は450ドル減っている。「生産性にとっては素晴らしいけど、生産性支出にとってはデフレ的」というわけです。
ドワルケシュ・パテルは「それは【労働の塊の誤謬】じゃないですか?」と反論しました。世の中にある仕事量は固定されていて、AIの影響でそれが減るという考え方は間違っているのではないか、と。
バーリの返答は「新しい市場は確かに生まれるが、熱心な未来主義者が信じるよりもはるかにゆっくりと発展するだろう」。ドットコムバブルの教訓です。最終的にインフラは使われたけれど、その過程で多くの会社が潰れました。
FOMOベースの投資
バーリは「この資本支出サイクルは信仰ベースであり、FOMOだ」と言い切ります。FOMOとはFear Of Missing Out、取り残されることへの恐怖です。
マイクロソフトもアップルも、AIに投資しないと競合に負けるという恐怖で動いているのではないか。実際のリターンはまだ誰も証明していない。
バーリはAIによって社会が便利になることは否定していません。問題は「投資に見合う収益が上がる」ことはそれとは別物だということ。ユーザーは便利になるかもしれないけど、企業は儲からない。
NVIDIAとパランティアの会計マジック
「天才ではなく運が良かっただけ」
バーリがターゲットにしているのはNVIDIAとパランティア。「彼らは天才なのではなく、ただ運が良かっただけだ」と辛辣です。
NVIDIAについての指摘:
- AIの未来は小型言語モデル(SLM)と専用チップ(ASIC)になる
- NVIDIAは電力を大量に消費する「汚い解決策」
- 競合がもっと効率的なアプローチで参入してくるまでのつなぎに過ぎない
- GoogleのTPUやAppleの自社チップがNVIDIA依存を減らしていく
パランティアの株式報酬問題
パランティアについては、CEOのアレックス・カープとの因縁があります。カープはショート勢を公に批判し「焼き尽くしてやった」と勝利宣言することで知られています。バーリは「あれは自信のないCEOの反応だ」と一蹴。
バーリが指摘する本質的な問題は**株式報酬費用(SBC)**です。
アメリカのテック企業は従業員に現金ではなく自社株で給料を支払います。キャッシュを減らさずに優秀な人材を雇える仕組みです。しかし2023〜2024年のパランティアでは、株式報酬の額が利益の2倍もありました。
つまり、普通に現金で給料を払っていたら余裕で大赤字。バーリに言わせれば「株主の権利を切り売りして、現金が出ていかないように見せかけているだけの偽りの黒字」です。
ただし、2025年Q3の決算を見ると、パランティアはこの懸念をねじ伏せています。純利益4.7億ドルに対して、株式報酬は1.7億ドル。配っている株の額より本物の利益の方が3倍近く大きくなっています。数字でバーリの懸念を克服したと言えます。
建設中資産(CIP)の問題
もう一つバーリが指摘するのが**建設中資産(CIP)**という会計項目。まだ稼働していない資本設備(建設中のデータセンターなど)がここに分類されます。
CIPに分類されている間は減価償却しなくていい、つまり損失として計上しなくていい。古くなって使えなくなったチップや設備を「まだ建設中です」と言い張れば、ミスった投資を隠せるのではないか、というのがバーリの懸念です。
マイクロソフトのサティア・ナデラが「1世代のチップで4〜5年の減価償却に縛られたくないから、データセンターのビルドアウトを遅らせた」と発言していることを、バーリは「決定的な証拠」として引用しています。
エスカレーター理論:誰も儲からないAI投資
バフェットのデパートの教訓
バーリが引用するのは、ウォーレン・バフェットの1960年代のエピソードです。
バフェットはデパートを所有していました。向かいのデパートがエスカレーターを導入すると、お客さんを取られる恐怖が生まれます。バフェットも高額な投資をしてエスカレーターを導入。結果、どちらも同じ状況に戻って、誰も利益が得られませんでした。顧客がメリットを享受しただけです。
バーリは「これがほとんどのAI実装で起こることだ」と言います。
競争優位を生まない投資
一社がAIに投資すれば、競合も投資せざるを得ない。でも最終的には全員が同じツールを持つから、誰も差別化できない。投資しないと取り残されるけど、投資しても儲からない。
バーリの言葉:「これが実体経済での活用への明確な道筋のない数兆ドルの支出がこれほど懸念される理由だ。ほとんどの投資は恩恵を受けないだろう。なぜなら競合も同程度に恩恵を受けて、そのせいでどちらも競争優位を持たないからだ」
Googleが最終的に勝つ?
バーリはGoogleの例を出します。Googleは検索において独占的な利益を得られています。なぜか?検索コストが極めて低かったからです。
収益化できない検索クエリが80%以上あっても、検索コスト自体が極めて安いから損失にならない。でもAIはどんなクエリも一定のコンピューティングを消費する。「これがジェネラティブAIとLLMの根本的な問題だ。あまりにも高価すぎる」。
もしAIスタック全体で誰も高い利益を上げられなくて、それでもAIが大きな存在になるなら、価値は顧客に蓄積されるだろう、とバーリは言います。企業の利益率は縮小し、AIは水や電気のような公益事業になる。コモディティ経済になった時に、おそらくGoogleが最終的に最も安価に運用できるようになるというのがバーリの予測です。
テスラジオの考察
バーリの主張を聞いて思ったのは、ピーター・ティールの「Zero to One」との共通点です。ティールは「競争を避けろ」と一貫して主張しています。競争が起こると価値が消費者に蓄積され、出資者側には蓄積されないから。
面白いのは、そのティールがパランティアを創業していること。AI以外の勝ち筋—データ分析プラットフォームとしての代替不可能性—を見込んでいるからこそでしょう。
また、「エスカレーターで儲かった企業がある。エスカレーターを作っている企業だ」という視点も重要です。NVIDIAはまさにエスカレーター屋。デパート同士の競争には興味がなく、エスカレーターを売り続けるポジションにいます。
投資の観点でもう一つ学びがあったのは、「自分がユーザーになっている商品の会社に投資する」という初心者向けアドバイスの危険性です。消費者目線で価値があるものは、競争環境にあることが多い。競争環境では価値が消費者に蓄積されるので、出資者としての自分には実入りが少なくなる可能性があります。
まとめ
- AIの算数の壁:インフラに60兆円投資、アプリ収益は15兆円。経済はGDP成長率に縛られている
- 会計上のマジック:株式報酬費用(SBC)と建設中資産(CIP)を使った見せかけの黒字に注意
- エスカレーター理論:全員がAI投資すれば誰も競争優位を持てない。価値は顧客に流れる
- コモディティ化の懸念:AIモデルは公益事業化し、Googleが最も安価に運用できるようになる可能性
- バリュー投資家の視点:技術の社会的価値と投資リターンは別物。出資者に価値が蓄積されるかを見極めよ
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