Googleの宇宙データセンター計画「プロジェクトサンキャッチャー」とは?技術・課題・経済性を解説
この記事でわかること
- Googleの「プロジェクトサンキャッチャー」が何を目指しているのか
- 2027年の実証実験に向けて行われている技術検証の詳細
- 宇宙データセンター実現に向けた4つの技術的課題
- SpaceXのスターシップが鍵を握る経済的実現可能性
なぜ今この話題が重要なのか
AIの急速な発展により、データセンターの電力消費が爆発的に増加しています。地球上のエネルギーだけでは足りなくなりつつあり、さらにデータセンターは膨大な電力と冷却用の水を消費することから環境批判を受けています。
そんな中、Googleが2024年11月に発表したのが「プロジェクトサンキャッチャー」です。これは宇宙空間に太陽光発電で動くAIデータセンターを構築するという野心的な計画。以前テスラジオでも取り上げた、イーロン・マスクとジェンスン・フアン(NVIDIAのCEO)が語っていた「宇宙データセンター構想」と同じ方向性の取り組みが、Googleによって具体的なプロジェクトとして動き始めているのです。
プロジェクトサンキャッチャーとは何か
Googleの「ムーンショットプロジェクト」
プロジェクトサンキャッチャーは、Googleが「ムーンショットプロジェクト」と位置づける研究開発プロジェクトです。ムーンショットとは、成功するかわからないけれど、成功したら世界が変わるレベルの大型プロジェクトを指す言葉。Googleはこれまでも、Google GlassやWaymo(自動運転)、量子コンピューターなど、多くのムーンショットプロジェクトに取り組んできた実績があります。
太陽光発電で動く衛星群
プロジェクトサンキャッチャーの基本構想は、太陽光発電で動く衛星をたくさん打ち上げて、その衛星群で宇宙空間にデータセンターを作るというものです。各衛星にはGoogleのTPU(Tensor Processing Unit:AI計算専用のチップ)を搭載し、衛星同士はレーザー光通信で超高速にデータをやり取りします。
レーザー通信というのは、レーザービームを衛星間で飛ばしてデータを送受信する技術です。イメージとしては、細い光のビームを相手の衛星に当てて、その光を超高速で点滅させることでデータを送るような仕組み。光ファイバーのケーブルを宇宙に引くわけにはいかないので、このような技術が必要になるのです。
太陽同期低軌道という特別な場所
衛星を配置する軌道として選ばれているのが「太陽同期低軌道」(サンシンクロナス・ローアースオービット)です。この軌道に衛星を配置すると、常に夕焼けや朝焼けの方向を向いた状態になり、ほぼ24時間太陽光を浴び続けることができます。
Googleの資料によると、適切な軌道に設置したソーラーパネルは、地球上に設置した太陽光発電の最大8倍のエネルギーを生成できるとのこと。地球では夜があり、天候で雲が出たりしますが、宇宙ではそれがないため、化石燃料や巨大なバッテリーも必要ありません。
なぜ宇宙なのか?持続可能性という動機
Googleが宇宙データセンターを目指す大きな理由は「持続可能性」です。現在の地上のAIデータセンターは、電力だけでなく冷却用の水も大量に使用しています。この問題は世界各地で深刻化しており、データセンターの存在によって地域の水道代が上がったり、水の利権が投資対象になったりという状況も生まれています。
宇宙にデータセンターを持っていけば、地球の資源を使わなくて済みます。炭素の排出も減らせるし、データセンター用の広大な土地も必要ありません。Google的には、AIの成長を止めずに環境負荷を減らせる方法として、これがベストだと考えているわけです。
技術検証の進捗:すでに実験段階
論文で示された「実現可能性」
プロジェクトサンキャッチャーは構想段階ではなく、すでに技術検証が進んでいます。2024年11月には技術論文も公開され、その中では「基本的な物理学と経済学において、このアイデアを全面的に禁止するものは何もない」という結論が示されました。つまり、論理的・物理的に可能であり、経済的にも成立し得るということです。
レーザー通信テストの成果
Googleがすでに行っている大きな実験の1つがレーザー通信のテストです。研究室で簡易モデルを作り、衛星同士のデータ送受信をシミュレーションした結果、最大1.6テラビット毎秒という通信速度を達成しました。
宇宙でAIチップ同士をつなぐには10テラビット級が必要だと言われているため、まだ目標には達していません。しかし、特別な装置ではなく市販のパーツだけでこの成果が出たことが重要です。今ある技術でもここまでできるなら、最適化を進めれば目標達成の目処が立つという状況です。
TPUの放射線耐性テスト
もう1つの重要な実験が、TPUチップが宇宙の放射線に耐えられるかのテストです。宇宙は地球の磁場や大気で守られていないため、高エネルギーの宇宙放射線がバンバン飛んできます。普通の電子機器だとすぐに壊れてしまうと言われていました。
ところが、GoogleがTrillium TPU v6e(現在GCPのクラウドで実際に使われている量産型AIチップ)に陽子ビームを当てて軌道上の放射線環境をシミュレーションしたところ、損傷なく耐えたのです。しかも、低軌道で5年間のミッションで受けるであろう放射線量の何倍ものレベルでテストして問題なかったとのこと。
典型的な放射線の15倍にさらしても、軽微なメモリーエラーを除いてチップは確実に動作し続けたと報告されています。なぜTPUがそこまで放射線に強いのかは明確ではありませんが、この結果は非常にポジティブです。特別な宇宙専用チップを開発しなくても、今使える高性能チップに適切なシールドを付けてそのまま使えるということで、コストダウンに直結する発見です。
2027年の実証実験
Googleが次のステップとして計画しているのが、2027年初頭に実証実験用の衛星を2機打ち上げることです。この打ち上げにはSpaceXを使うことが想定されており、Starshipの進捗がこのプロジェクトにとっても非常に重要な要素となっています。
4つの技術的課題
ムーンショットプロジェクトである以上、課題は山積みです。Googleは以下の4つを主要な技術的課題として挙げています。
1. 熱管理
TPUチップはめちゃくちゃ熱を出します。地上だと空気があるのでファンや水冷方式で簡単に熱を逃がせますが、宇宙は真空なので「空気で冷やす」という手段が一切使えません。熱は放射(赤外線として宇宙にじわーっと放つ)でしか逃がせないのです。
以前、ジェンスン・フアンが「宇宙なら(冷却装置を)ぶら下げるだけで勝手に冷える」と言っていましたが、実際にはそう単純ではありません。大きな熱を逃がすには大きな放熱板が必要で、大型のラジエーターや熱を運ぶヒートパイプなど、巨大な放熱面を衛星に付ける必要があります。これはペイロード(打ち上げる荷物の重量)が増えることを意味し、打ち上げコストにも影響します。
2. 地球へのデータダウンリンク
衛星同士のレーザー通信は実験済みですが、地球との通信は別の課題があります。地球には大気があり、雲や乱気流がレーザー通信を妨害する要素となるのです。おそらく複数の地上局を世界中に設置する必要があるでしょう。
ただし、Starlinkが同様の課題に取り組んでいるため、この分野の技術は進歩しています。Starlinkも世界中に複数の地上局を持っており、日本にも地上局があります。
3. 信頼性とメンテナンス
宇宙だと何か壊れても修理できないという根本的な問題があります。地球のデータセンターなら部品を交換すればいいのですが、宇宙ではそう簡単にはいきません。システムに冗長性を持たせて予備の衛星を用意したり、自己修復できるソフトウェアを入れたりする必要があります。
SpaceXはすでにプログラムでロケットをリモート操作するような技術を持っているので、この分野でもSpaceXとの連携が重要になるかもしれません。
4. 編隊飛行と衝突回避
レーザー通信で高速にデータをやり取りするには、衛星が数キロから数百メートルぐらいの近さで飛ばないといけません。しかし、地球の重力のムラや薄い大気の抵抗で衛星が若干ずれることがあるため、各衛星が小型の姿勢制御エンジンで常に位置を調整し続ける必要があります。
Googleの資料には81機の衛星を使ったシミュレーションの結果が出ていました。各衛星がちょこちょこ軌道を調整しながら、数百メートルの距離を維持できるかを検証したもので、大量の衛星が編隊を組んで太陽同期低軌道を飛ぶという、まるでSFのような光景が実現に向けて準備されているのです。
経済的実現可能性:鍵はスターシップ
すべての技術的課題をクリアしたとして、コスト的に成り立つのでしょうか。Googleはこの点についても分析しています。
打ち上げコストの損益分岐点
衛星を打ち上げるにはロケットが必要で、現在は1kgあたり数千ドルのコストがかかります。しかし、低軌道への打ち上げコストが1kgあたり200ドルぐらいになれば、軌道上のデータセンターの運用コストが地球上のデータセンターの年間電力コストと同等になるとGoogleは試算しています。
スターシップの進捗が命運を握る
この価格帯を達成できる可能性があるのが、SpaceXのStarshipです。スターシップが完全再使用型ロケットとして頻繁に飛ぶようになれば、打ち上げコストは劇的に下がります。
Googleの予測によると、スターシップ計画が順調に進めば、2035年頃までに軌道上のデータセンターの方が地球上よりもコストメリットが出てくる可能性があるとのことです。
テスラジオの考察
イーロン・マスクが以前から言っていた「宇宙でデータセンターを作る方が合理的」という発言が、Googleの具体的なプロジェクトによって裏付けられた形です。興味深いのは、イーロン・マスクはまだ「言っている段階」なのに対し、Googleはすでに実証実験の準備を進めているという点です。
一方で、そのGoogleのプロジェクトもSpaceXの技術に依存しているという構図は面白いですね。打ち上げはスターシップに頼り、リモートでの衛星制御技術もSpaceXが先行している。結局のところ、宇宙開発においてSpaceXの存在感は圧倒的です。
また、イーロン・マスクが長年「地球の限界」を語り、SpaceXを立ち上げた背景を考えると、AIの電力需要という形で地球の限界が顕在化し、その解決策として宇宙が浮上するという展開は、彼のビジョンが「各論は外しても総論は当てている」ことを示しているように思えます。
まとめ
- プロジェクトサンキャッチャーは、Googleが宇宙に太陽光発電AIデータセンターを構築するムーンショットプロジェクト
- 技術検証は進行中で、TPUの放射線耐性テストとレーザー通信実験で有望な結果が出ている
- 2027年に2機の実証実験用衛星を打ち上げる計画
- 熱管理・地球との通信・メンテナンス・編隊飛行という4つの技術的課題が残っている
- 2035年頃にスターシップの進捗次第で経済的に成立する可能性がある
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