Google DeepMind ハサビスが語るAI×エネルギー問題:室温超伝導体とAGIへの道筋
この記事でわかること
- スケーリング法則の現状とAGI実現に必要な「あと1〜2つのイノベーション」
- AIがエネルギー問題を解決する3つの具体的アプローチ
- ハサビスが最も注目する「室温超伝導体」とは何か
- GoogleがDeepSeekやOpenAIとの競争で勝つための戦略
なぜ今この話題が重要なのか
AI業界では「エネルギー制約」が最大のボトルネックになりつつあります。どれだけアルゴリズムが優れていても、チップが足りない、電力が足りないという現実的な壁に直面しているのです。
イーロン・マスクも同様の懸念を示していますが、Google DeepMindのCEOデミス・ハサビスは独自のアプローチで解決策を提示しています。それは「AIにエネルギー問題を解決させる」という、一見すると循環論法のような、しかし科学的に深い戦略です。
本記事では、ハサビスの最新インタビューから、AI業界の未来を左右する重要な洞察を紹介します。
スケーリング法則とAGIへの道
スケーリング法則は今でも有効
AI業界で長らく語られてきた「スケーリング法則」。計算資源とデータを増やせば増やすほどAIの性能が上がるという法則です。最近では話題に上ることが減りましたが、ハサビスによると今でもちゃんと機能しているとのこと。
ただし、数年前ほどの爆発的なスピードではありません。ハサビスの表現を借りれば「ゼロリターンと指数関数的成長の中間」にいる状態。収穫逓減の傾向はあるものの、投資する価値は十分にあるというスタンスです。
AGIにはあと1〜2つのイノベーションが必要
しかし、スケーリングだけではAGI(汎用人工知能)には到達できません。ハサビスは「あと1つから2つの大きなイノベーションが必要」と明言しています。
現在のAIが抱える根本的な課題は「Jagged Intelligences」(ギザギザ知能)。ChatGPTやGeminiはめちゃくちゃ賢いのですが、得意なことと苦手なことの差が激しすぎるのです。
具体的には:
- 継続的な学習ができない: 一度学習したらそれで終わり。リアルタイムで新しいことを学び続けることができない
- 真の創造性に欠ける: 既存の知識を組み合わせて答えを出すことはできるが、全く新しいアイデアを生み出せない
ノーベル賞級の発見を生み出すには、今のLLMでは不十分なのです。
世界モデルという次のブレークスルー
この課題を突破するためにハサビスが注目するのが「世界モデル」という概念です。
今のAIは画像や動画も扱えるようになってきましたが、世界の物理法則や因果関係を本当の意味で理解しているわけではありません。
優秀な科学者が頭の中で「もしこの実験をしたらこうなるはず」とシミュレーションできるのに対し、今のAIにはそれができない。AIが自分で新しい仮説を立てられるようになって初めて、本当の意味での科学的発見ができるようになるというわけです。
DeepMindではこの世界モデルの構築に向けて、Genie(ゲーム環境生成AI)やVeo(動画生成モデル)といったプロジェクトに取り組んでいます。ハサビスの論理は明快です:
「リアルな動画を生成できるってことは、それってそのモデルが世界についてある程度理解してるってことじゃない?」
将来的にはLLMとこの世界モデルが融合(コンバージェンス)していくだろうと予測しています。言語も理解して物理法則も理解しているAI—それはAGIにかなり近いものになるでしょう。
AGI実現は5〜10年以内
ハサビスはAGI実現は今から5〜10年以内と明言しています。各社の予想が似通ってきている中、ハサビスの予測は特に信頼性が高いと言えます。
DeepMindは2010年設立時から「これは20年かかるミッション」と考えていたそうです。2025年現在、タイムプラン的に予定通りに進んでいるとのこと。
ちなみに、イーロン・マスクは「今年できる」と言っていますが…視聴者からは「イーロンのタイムスケジュールは当てにならない」というコメントが多数寄せられています。
AIがエネルギー問題を解決する
チップ不足とエネルギー不足が真のボトルネック
ハサビスによると、AI業界が直面している一番の問題はアルゴリズムやアイデアの不足ではなく、チップと電力の不足です。
興味深いのは、NVIDIAのGPUとGoogleのTPUの使い分けについての言及です:
- 新しいアーキテクチャを試すとき: NVIDIAのGPU(汎用性が活きる)
- 既知の技術を最大限スケールさせるとき: カスタムシリコンであるTPUの方がはるかに効率的
GoogleはTPUを持っているため立場的には強いものの、それでも十分ではないのが現状です。
「エネルギーは知性と同義になる」
そして根本にあるのがエネルギー問題。ハサビスは「エネルギーは知性と同義になる」という深遠な言葉を残しています。
AGIに近づけば近づくほど必要な計算量は増え、計算量が増えれば電力が必要になる。将来的には「どれだけエネルギーを確保できるか」が「どれだけ賢いAIを作れるか」を決める構図になるというのです。
この点で中国は有利だと言われています。独裁国家は「太陽光だ!」と決めたら一気にパネルを敷き詰められる。民主主義国家にはできないスピード感があるのです。
AIが生み出す3つの解決策
では、このエネルギー問題をどう解決するのか?ハサビスはAI自身が解決すると主張します。
1. 既存インフラの効率化 AIを使って今あるデータセンターの効率を上げる。これは既に実践されています。
2. 新しいエネルギー技術の発見 より効率的な太陽光発電の素材をAIに設計させたり、核融合炉の開発を加速させたり。実際、DeepMindはアメリカのCommonwealth Fusionという核融合の会社と協力して、プラズマを制御する研究を行っています。
3. AIモデル自体の効率化 毎年AIモデルの効率は10倍ずつ向上しているとのこと。「蒸留」(Distillation)という技術で、大きくて賢いモデルが小さいモデルに教えることで、はるかに少ない電力で動くモデルが生まれます。GoogleのGemini Flashは、まさにこの「workhorse model」(実用主力モデル)として活躍しています。
ハサビスが最も注目する「室温超伝導体」
そして、ハサビスが個人的に最も力を入れているのが室温超伝導体(room-temperature superconductor)です。
超伝導体とは、電気抵抗がゼロになる物質のこと。電流が永久に流れ続け、強力な磁場を損失なしで作れる—物理法則レベルでチートな物質です。
ただし、既存の超伝導体はほぼすべてがマイナス200度といった極低温でしか機能しません。冷却コストが非常に高く、インフラ用途では全く使い物にならないのです。
もし室温・常圧で超伝導が起きる物質が見つかれば、人類史レベルの技術革命になります。電力送電のロスがなくなり、エネルギー問題は根本的に解決する可能性があります。
これはAlphaFoldがタンパク質構造予測という50年来の難題を解決したのと同じアプローチ。AIの力を使って、既存の科学技術を飛躍的に進展させる—それがDeepMindの戦略なのです。
Googleの競争戦略と組織再編
組織再編が巻き返しの鍵
Googleは2〜3年前、AI競争で遅れていると言われていました。Bardというモデルは微妙で、ChatGPTの登場に焦っていた時期です。
ハサビスの反省はこうです:
「技術は発明したけど、商業化とスケールアップが遅かった」
実際、過去10年間でAI技術の90%はGoogleが発明してきました。Transformerアーキテクチャ、「Attention Is All You Need」論文—今のすべてのLLMの基礎はGoogle発なのです。
転機となったのは組織再編。3年前にGoogle BrainとDeepMindを統合し、Google DeepMindという一つの組織にしました。ハサビスはこれを「Googleのエンジンルーム」と呼びます。
すべてのAI技術がここで開発され、即座にGoogle検索、Gmail、Androidなどあらゆる製品に展開される仕組みが整ったのです。
ハサビスとGoogleのCEOサンダー・ピチャイはほぼ毎日話しているとのこと。新しいGeminiモデルが出たら、翌日にはもうGoogle検索に反映されるスピード感で動いています。
中国DeepSeekへの評価
中国のAIモデル、特にDeepSeekやアリババのモデルについて、ハサビスは「アメリカの最先端モデルからたった数ヶ月遅れまで迫ってきている」と評価しています。
注目すべきは、中国が最先端のNVIDIAチップへのアクセスを制限されているにもかかわらず、ここまで追いついている点です。
ただし、ハサビスは一つの指摘をしています:
「既存技術のキャッチアップはできているけど、根本的なイノベーションはまだ見せていない」
Transformerのような全く新しいアーキテクチャを発明できるかどうか。既存のものをコピーして改良するのと、ゼロから何かを発明するのは難易度が100倍違うと言います。
これは「メンタリティの問題」だとハサビスは見ています。探索的なイノベーションを奨励する文化があるかどうか。DeepMindは「現代のベル研究所」のような存在を目指し、新しいものを探求する文化を育んでいるとのことです。
2026年の注力分野
Googleが2026年に注目している3つの分野:
- エージェントシステム: より自律的に動けるAI
- ロボティクス: Geminiを使ったロボット開発
- デバイス上のAI: スマホやスマートグラスで動くAI
特に注目はスマートグラス。ワービーパーカーというメガネ会社と協力して開発中で、「ユニバーサルアシスタント」というキラーアプリを搭載する予定です。日常生活をサポートしてくれるAIアシスタントが、いよいよ形になりそうです。
テスラジオの考察
ハサビスとイーロン・マスクのアプローチの違いが興味深いですね。
イーロンは「宇宙データセンター」のような新しいゲームを始めるタイプ。太陽との距離感がバグっていて、友達みたいな感覚で語ります。彼にとって宇宙は「行こうと思えば行ける」距離なのでしょう。
一方、ハサビスは科学技術の進展をAIでどう起こすかを考えるタイプ。室温超伝導体やAlphaFoldのように、基礎科学のブレークスルーをAIで加速させる戦略です。
イーロンは物理、ハサビスは科学。この二人が同じ「エネルギー問題」という課題に全く異なるアプローチで取り組んでいるのは、テクノロジーの多様性を示していて非常に頼もしいことです。
そして何より、ハサビスがAIの未来を「女の子の画像をビキニに変える」ようなものではなく、人類を豊かにする新素材・新アーキテクチャの発見に期待しているのは、テスラジオとしても共感できるところです。
まとめ
- スケーリング法則は有効だが、AGIにはあと1〜2つのイノベーションが必要。世界モデルの構築が鍵
- AGI実現は5〜10年以内。DeepMindは20年計画の予定通りに進行中
- エネルギー問題はAI自身が解決する。核融合、室温超伝導体、モデル効率化の3アプローチ
- Googleは組織再編で巻き返し。研究と製品化の統合が競争力の源泉
- 中国はキャッチアップは早いが、根本的イノベーションはまだ。文化の問題
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